PCT(Pacific Crest Trail)の南カリフォルニアセクションは、「砂漠で暑い」「最初の難関」という情報だけで歩きに行きました。実際はその通りですが、時期によっては降雪もあり得ます。
実際に歩いてみると、想像以上で大変でした。水はないし、足は泥まみれだし、想像以上に英語はできないし、ヒッチハイクは失敗するし。更に酷い時には、嵐に降雪、雹まで降ってきます。
本記事では、2024年にPCTを北行(NOBO)で歩いた実体験をもとに、PCT南カリフォルニアセクションの現実をお届けします。
これからPCTを目指す方が、歩くための判断材料になれば幸いです。
PCT南カリフォルニアセクションとは

最初に南カリフォルニアエリアを歩く為に必要な情報を精査します。
PCT南カリフォルニアの基本情報
PCT南カリフォルニアセクションは、メキシコ国境のCampoの町から始まり、シエラネバダ山脈手前まで続く区間です。シエラネバダ山脈の入り口には、砂漠砂漠があります。その為、最後の区間は、標高は高いけど、日中は暑い所です。
- 距離:約566mile(約911km)
- スタート地点:Campo(標高;約2913ft(888m))
- 標高:最大で3,000m近くまで上がる
- 累積標高:89576ft(約27000m)
- 主な環境:砂漠、低木帯、乾燥地帯、山岳
多くの北行ハイカーにとって、PCT最初のセクションにあたります。非常にバリエーションにとんだ区間ですが、総じて感想は暑いです。常にサボテンとジョシュアツリーを見ながら歩くことになり、数人ですが脱水症状で悩むハイカーもいました。
PCT南カリフォルニアはやはり乾燥地帯で時折砂漠

気温差と直射日光の厳しさが想定外
南カリフォルニアでまず驚かされるのは、気温差の激しさです。標高が1000m前後あっても、日中では30℃を超えてきます。ハイカータウンという、500mile程の所では、日中に無風で40℃超えもありました。一方で、標高が1000m以上の区間に行くと朝晩は冷え込みます。僕が歩いた時は、雪が降ってきたこともありますし、残雪が酷い区間もありました。
特に想像以上だったのが直射日光です。木陰がほとんどない場所も多く、帽子やサングラス、日焼け対策を怠ると体力を一気に奪われます。僕は全身を洋服で覆っていましたが、何もない人たちは肌を真っ黒に焦がし、日焼けサロンの帰りのようになっていました。一番多いのはフーディーを活用する方々で、次に日傘でした。
砂漠地帯は想像以上に水が無いという現実
「砂漠」と聞いて水が少ないことは想像できますが、実際には想像以上に水場間隔が長いです。ロングトレイルでは地図で確認をできるからと、油断をしていた時期です。まさか、10mile(16km)以上水がない区間が、幾つかあるとは思っていませんでした。その間ももちろん、日光は強く大量の水を持ち運ぶ必要がありました。
- 10mile以上、水場が無い区間がある
- 情報通りに水が出ていないケース(GOODと記載されていても少ない事もある)
- 水場が完全に枯れているケースも少なくはない
- 5月を過ぎると、水場よりも日光がシビアになる
特に、水があると思って歩いて水がないケースは苦しいです。一部区間では本当に限られた水場を共有するため、水を確保するのに渋滞をしていることもありました。みんな順番を守り、基本的には先着順で水場を利用していきます。
水を「余らせる」ことより、「足りなくなる」リスクの方が遥かに大きいと感じました。慣れない間は、水を多めに所有して歩く方が不安要素が減り安心して歩けます。僕も常に3L以上の水を持つように序盤は心がけていました。
PCT南カリフォルニアで最も重要なのは水場管理

水場の情報は常に変わる
PCT南カリフォルニアでは、水場の状況が激しく入れ替わる印象です。地図に記されている所と微妙にずれているところもあるし、場合によっては昨日まで水があったのに今日はない事もありました。
FarOutなどの地図アプリでは、リアルタイムでコメントがアップデートされます。それを読んで状況を把握しながら歩くのが良いでしょう。多くの場合で、先に歩いて調査してくれているハイカーがいます。
実際に歩いて感じたのは、
- 近くのハイカーと情報を交換する
- 最悪のケースを想定して行動する
という姿勢が重要です。特に、「最悪水がなくても歩ける」ように水を確保しながら歩く方が、堅実な歩き方ができると思います。基本的には歩くときに1L以上飲むように心がけて、テントサイトでは2Lほど飲むことが多かったです。
実体験:水を多めに持って正解だった話
水に関しては常に多く持ち歩くことにしました。次の水場につく前に一泊することや、次の水場が枯れていても最悪なんとかできる様に備えて動きました。特に、1時くらいに水場についてそれ以降水場にありつけない時は、かなり多めに4Lほど持ち歩きます。夜に1L以上は飲むし、実は足が泥まみれになるので洗うために300milほど利用します。水を倒したり、ラーメン零したりしたときには、余分に水を持っていると安心です。疲れた体では、予期せぬ事故を何度も引き起こし、何度もテント内を水浸しにしました。
特に、暑い日の行動では要注意です。5時前に歩き終えても7時過ぎまで暑く、10時くらいまでは寝苦しい夜があります。そうすると想定以上に水を飲むことになります。何度かそういった夜があり、余分に水を持っていたことに感謝することがありました。なければ、寝るのに苦労したし、翌朝脱水症状間違いなしでしたね。
PCT南カリフォルニアの行程の考え方

最初から距離を稼がない方がいい
PCTの最初のセクションで、いきなり距離を稼ごうとするのはおすすめしません。初日に20mileを目指す人が多く、理由はレイクモレナというリゾート地(キャンプ場)があるからです。ですが、毎日確実に20mile以上を日中に歩き続けるというのは、思いのほか苦しかったです。
理由はシンプルで、
- 暑さに体が慣れていない
- 砂地で足運びに苦労している
- まだ体が、ロングトレイルを歩くのに適していない
僕自身、南カリフォルニアでは無理に20mile超を狙わず、体調と相談しながら行程を調整しました。実際に、初日は20mileでしたが、二日目は19mileですし、その後も体調と気温を見ながら判断して歩くことにしました。
行程は「最低限」で考える
南カリフォルニアでは、行程は「理想」ではなく「最低限」で考える方が安全です。最低限、「次の町までたどり着く」ことを意識して毎週の行程を考えていきます。
- 今日はどこまで行ければOKか
- 水と体力が残る範囲はどこか
- 無理をした場合の逃げ道はあるか
この考え方が、その後のPCT全体を安定させてくれました。特に僕の場合は、街の事前調査などを全くしていなかったので、安心しました。
前半は獲得標高を意識して歩く方がよい
常に砂漠地帯、常に乾燥地帯、というわけではありません。南カリフォルニアエリアは、森の中を歩くこともあれば、砂漠地帯を永遠と歩くこともあります。様々な環境に体を慣らしながらも、とにかく熱い区間です。
そんな中で行程を考える際、注意するべきことは獲得標高です。一日何ftであれば登れるのか、意識しておく方が良いでしょう。個人的な話ですが、距離以上に重要な要素だと思います。特に、Idyllwildという町付近では標高が一気に上がります。200mileもいかない所にある難所なので、注意しましょう。
PCT南カリフォルニアで装備について感じたこと

UL装備の人が何を得するのかは不明だった
よくULハイキングをすると、よく身体的負荷を軽減すると言われています。しかし、その見解は正しいかは不明です。とある実験によると、荷物の重量は歩く速度が一定域であれば、エネルギー消費量が変わらないという結論が出ています。また、歩く速度が5km/hを越えて来ると、動作がランニングに寄ってくるので荷物重量に寄らず、速度に依存してエネルギー量が増えていくようです。
PCTでは20kg以上の荷物を基本的に背負い、四国お遍路では10kgくらいの荷物を背負い続けてみました。結論としては、確かに一定の速度で歩いている間はそこまで疲労感に差は無いと思っています。
ゲイターは必須
多くのハイカーがゲイターを着用して歩いていました。理由は簡単で、砂や埃、ゴミが靴の中に入らないようにするためです。人気だったのは、トレイルランニングをする方々が利用している様な、ポリエステルなどの化学繊維を編み込んだ、ある程度伸縮性のあるゲイターです。
このゲイターを利用しておけば、足首周りから砂が入ることを防ぐことができます。僕の場合はゲイターを装備していなかったこともあり、毎日足は泥まみれでした。特に足先のダメージは酷く、南カリフォルニアエリアでは、常に泥との格闘をしていました。泥になるのは、砂が入り込んで足汗で濡れてしまうからです。
PCT南カリフォルニアセクションを歩いて分かったこと

最初の600mileがPCT全体を決める
南カリフォルニアは、PCT全体の「ふるい」にかけられる区間だと感じました。道中で泣いている方や、諦めて挫折する方、チャージ期間を作る方もいます。その孤独との戦いに、敗れ去る人も少なくありません。
- 無理をする人は序盤で消耗する
- 孤独に耐えられない人は諦めて行く
- ルールに縛られ過ぎた人は、後半でつらそう
ここでの歩き方が、その後のトレイルを大きく左右しているように感じました。また、最初の600mileという事で歩行リズムを作る役割もあるように感じました。南カリフォルニアで毎日5時から7時まで歩く人は、その後も同じように歩いている印象です。
余暇の楽しみ方がロングトレイルなのかもしれない
ロングトレイルを歩いていた理由の中で一番多いのは「退職したから」というモノです。人生の余暇として、ロングトレイルを楽しんでいるようでした。アメリカでは、PCT, CDT,ATとロングトレイルがあり全て達成した人を、トリプルクラウナーと呼称するようです。ただ、アメリカ人からすると「暇人の象徴」という、忌み嫌われる側面があるという話を聞きました。
考えてみると、ロングトレイルというのはそういう側面があります。孤独で、暇で、ただ歩くだけ。常に自分と向き合い、考え続ける。もしかしたら、最も贅沢な遊びの一つかもしれません。
