登山を始めると、一度は悩むのがトレッキングポール(ストック)の必要性ではないでしょうか。僕自身も、登山を始めた頃は「不要」と思っていました。実際、数年間はストックを持たずに歩いていましたし、「邪魔になるだけじゃないか」と考えていた時期もあります。
しかし、その考えが変わったのは北アルプス・表銀座縦走でした。そして、その後アメリカのロングトレイル PCT(Pacific Crest Trail)約4,200km を歩き、累計6,000km以上歩いた今では、
「長く歩く人ほど、トレッキングポールは使った方がいい」
という結論にたどり着いています。
もちろん、万能な道具ではありません。岩場や鎖場では邪魔になることもありますし、人によっては使わない方が歩きやすい場面もあります。この記事では、実体験をもとに紹介します。
これから登山やロングトレイルを始める方は、ぜひ参考にしてください。
トレッキングポールは本当に必要なのか?

結論から言えば、長距離を歩くなら、ほぼ必須です。ただし、日帰り低山や観光ハイキング、荷物が軽い山歩き、この程度であれば無くても問題なく感じました。逆に、20km以上歩く、標高差1000mを超える、テント泊や縦走にロングトレイル、このような登山では、疲労の残り方がまるで違います。
これは僕自身が何度も比較した結果です。
僕がストックを使うようになった理由
最初にストックを購入した理由は、とても単純でした。北アルプスの表銀座ルートを歩く予定があり、「最後まで足が持たない」ということが、過去の登山経験から分かっていたからです。そこで色々調べると、
トレッキングポールを使うと足への負担が減る
という情報がたくさん出てきました。さらに、
- 一本より二本
- 歩行姿勢を維持することが重要
- 重量より使い方の方が大切
ということも知り、「それなら安い物で試してみよう。」と思い、中華製の安価なストックを購入しました。結果は予想以上で、ロングトレイルを行う時には必ず持っていくことになりました。
実際に使って一番驚いたこと
一番驚いたのは、「歩いている最中ではありません」。本当に効果が表れるのは、翌日の疲れでした。20km以上歩き、標高差1000m以上登った翌朝に寝袋から出る時。その差は歴然でした。
- ストック無しだと、昨日の疲れが残っており少し足が重たい。
- ポールを使用していれば、疲れが軽減されているように感じます。
小さなことですが、連日限界まで歩き続ける縦走や、長期にわたり足を酷使するロングトレイルでは、この差は積み重ねで表れていきます。一週間以上歩き続ける時には、この積み重ねの差に驚くことになります。朝から足元が重たくないのは、とても快適です。
僕にとってストックは、歩くための道具ではなく、翌日も歩くための道具になりました。日々歩き続ける為に、本当に重要な道具なのだと、実感しました。
トレッキングポールの役割とは?
ストックというと、「転ばないための杖」というイメージを持つ人も多いでしょう。もちろん、それも正解です。しかし実際には、それ以上の役割があります。
- 歩行姿勢の維持
- 足への負担を分散する
- バランスを取る
- 転倒防止
このような役割があります。
歩行姿勢の維持
最も重要なのはこれです。ザックが重くなるほど、人は前傾姿勢になり、無理な姿勢での歩行が続きます。すると、肩へ荷重が集中し腰荷重が崩れ、どんどん疲れてしまいます。足腰よりも先に、肩の限界が訪れて、登山を楽しむどころではなくなります。
ストックをほぼ真下へ突くことで、自然と体幹が起き、姿勢が安定します。腰荷重を維持継続し続ける事につながり、肩を痛め集中できない状態で歩くことを避ける事ができます。
この姿勢の違いは、長距離になるほど大きく現れます。長く歩き続ける為に、歩行姿勢を維持し続ける事が大事だ。
足の負担を分担する
よく、「脚への負担が30%軽減される」と言われています。数字については様々な研究がありますが、僕自身も、負担が軽くなっていることは体感しました。特に下山では効果が大きくあると感じています。膝へ掛かる衝撃を逃がせることは、とても大きなメリットです。
その結果、翌日の疲労が減るだけではなく、膝の負担が減り故障を減らすことができます。ひざを故障してしまうと歩くことが難しい為、歩き続ける為には重要です。
バランスを取る
転ばぬ先の杖、として有効です。登山道では、舗装路のような平らな場所はほとんどありません。多くの場合、足元は不安定で時にはぬかるみ、場合によっては滑ることもあります。登山道では、
- 岩
- 泥
- 倒木
- ガレ場
- 木道
- 沢
このような場所を歩くことも少なくはありません。このような時には、第三・第四の足として活躍します。両足だけでは心もとない状況で、しっかりと手を使ってバランスをとることができます。
実際、6000km歩いてバランスを崩した瞬間には、とても強力に活躍してくれました。バランスを崩してしまった瞬間に、咄嗟につくことができて転倒を免れたことは何度もあります。また、川を渡るときにも流されないようにしっかりと体を支える事ができます。
トレッキングポール最大のメリットは「転ばないこと」
実は、疲労軽減以上に重要だと思っていることがあります。それが、転倒防止です。転倒すると、「捻挫」「骨折」「打撲」「装備破損」など、その日の登山だけでは済まない問題になります。
ストックは、そのリスクを大きく減らしてくれます。
川を渡る時は命綱になる
沢を渡る時ほど、ストックのありがたさを感じる場面はありません。命綱のようなもので、頼りなさはありますが咄嗟の時に何度も救われています。
流れのある川では、足元が見えません。石も滑るし、川の流れが急だと流されそうになります。そんな時、ストックを二本突くだけで四点支持になり安定します。一歩一歩、確実に進めるため安心感はまるで違います。
実際、PCTでも日本でも何度も助けられました。
倒木の上を歩く時にも役立つ
雨の日や沢沿いでは、倒木を渡ることがあります。濡れた木は本当によく滑りますし、丸い木の上はそもそも歩行場所が限られてしまい転倒や落下の危険性が高いです。そんな時でも、ストックがあるだけで、体を支えながら渡れます。
もし足を滑らせても、ストックで踏ん張れる可能性があります。そもそも、歩幅を極限まで小さくできる為、安心安全です。第三の足という表現は、まさにこの場面のためにあると思っています。
残雪でも安心感が違う
残雪期でも活躍します。雪面へストックを突き、体重を預けながら歩けます。もちろん、ピッケルほどではありませんし、力をかけすぎると曲がって折れます。
それでも、雪渓を慎重に横断する程度なら、安心感は大きく変わります。僕自身、何度もストックへ体重を預けながら、雪の上を歩いてきました。曲がる可能性はあります。しかし、ストックが曲がることより、自分が滑落する方が遥かに危険です。
そのため、躊躇なく体重を預けています。
トレッキングポールのメリット・デメリットまとめ
ここまで読むと、「ストックは万能じゃないか」と思うかもしれません。しかし、当然ながらデメリットもあります。実際に6000km歩いた中で感じたことをまとめると、次のようになります。
メリット
- 足・膝への負担を軽減できる
- 翌日に疲労を残しにくい
- 歩行姿勢が安定する
- 川やガレ場で安全性が高まる
- 残雪や泥道でも安心感がある
- 重い荷物ほど効果を実感しやすい
- 長距離になるほど恩恵が大きい
デメリット
- 岩場では邪魔になる
- 鎖場では収納する必要がある
- 藪漕ぎでは木に引っ掛かる
- 荷物が少し増える
- 慣れるまでは歩き方が難しい
トレッキングポールは本当に必要?6000km歩いた僕の結論
結論から言えば、登山・ロングトレイルでは必須。日帰り登山でも持ち込むべきアイテムでしょう。僕の場合は、今でも様々なハイキングに持ち込んでいます。

実際、PCTでは9割以上のハイカーがトレッキングポールを使っていました。中には30L前後の超軽量ザックだけで歩いているULハイカーもいましたが、そのような人達を除けば、ほぼ全員が両手にポールを持っています。
これは偶然ではありません。
数千km歩く経験者ほど、「疲労を減らす道具」として必要性を理解しているからです。
PCTでは9割以上のハイカーが使っていた理由
PCTでは本当に多くのハイカーがストックを使っていました。UL装備で30L程度のザックを背負っている人だけが、たまに使っていない程度です。
それ以外は、ほぼ全員が両手にストックを持っています。中には、倒木を拾って杖代わりにしている人もいました。さらに驚いたのは、巨大な竹を持って歩いていた65歳のハイカーです。
腕は驚くほど太く、僕より重そうなザックを背負いながら、竹一本で軽々と歩いていました。理由を聞くと、
「重い方が面白いだろ?」
と笑っていました。
道具は違っても、歩行を安定させたいという考えは皆同じなのだと思います。
ワンポールテントとの相性は抜群
最近は、トレッキングポールで設営するテントも非常に増えました。PCTでも、Zpacksなどを使用しているハイカーは、ストック2本でテントを立てています。専用ポールが不要になるため、軽量化という意味では非常に合理的です。
ただし、僕は少し違う考えです。アルミポールは曲がることがあります。曲がれば、テントを綺麗に設営できなくなる可能性があります。カーボンだと折れ曲がるのではなく破損してしまうので、テントの設営ができなくなる可能性も考えられるのです。
一つ何役もこなすのは登山音基本ですが、カバー範囲を広げ過ぎると一つのアイテムの損失が、重大な欠陥に至る可能性もあります。
テント設営できなくなる人もいた
実際、PCTでは折れたカーボンポールを前に困っているハイカーを何度か見かけました。枝を捜して設営したり、木に引っ掛ける事で無理に設営している人もいました。晴れの日であればいいですが、雨の日だと最悪です。
だから僕は、ワンポールテントでも専用ポールを持つタイプです。多少重量は増えますが、安心感を優先しています。
僕がDABADAのトレッキングポールを選んだ理由
「どうして高価なLEKIやブラックダイヤモンドではなく、DABADAを選んだの?」これはよく聞かれる質問です。理由は非常に単純4つだけでした。
- 値段が安かった
- アルミ製だった
- 長さ調整ができた
- とりあえず実験してみたかった

当時は「トレッキングポールが本当に必要なのか」半信半疑でした。いきなり2万円近いポールを購入する気にはなれず、「まずは安い物で試してみよう。」そう考えて購入しました。
結果として、PCT約4,200kmと国内のロングトレイルを含め、数年間使い続けることになります。
DABADAで気になったところ
もちろん、価格相応に気になる部分もありました。安価モデルという事だけあって作りが雑に感じる所はあるし、実際にグリップ付近のつくりには雑味を感じます。所見ではグリップがコルクのように見えますが、実際に握ってみるとそれは全部スポンジでした。
アルミ製でしたが、ところどころで錆が出ていることも確認しています。プラスチックパーツやゴムパーツのつくりの甘さも見られ、正直なところ値段相応の作りであると言えます。
ネジ式ロックは緩みやすい
様々な「値段相応」の中で一番気になったのは、長さ調整部分です。DABADAはねじ込み式なので、歩いている最中に少しずつ緩んできます。突然縮むほどではありませんが、週に何度かは締め直していました。
そのため、僕はできるだけ長さを変えないようにしていました。寝る時も伸ばしたままにして眠るし、歩いている時に登りや平地では若干長いのを我慢して使用しました。下りに標的を合わせて、それ以外の時はグリップの中央ではない所を握る感じです。
調整回数を減らせば、ネジ部分の摩耗も少なくなります。長期間使うなら、意外と重要なポイントです。
バネ(アンチショック)は正直いらなかった
もう一つ気になったのが、アンチショック機構です。一見すると、腕への負担を減らしてくれる便利な機能に思えます。しかし、僕には合いませんでした。
理由は、「体を支えたい瞬間に沈み込む」からです。川で流されそうになったり、転倒しそうなところを支えてくれなかったりと、意外とこの機能に苦しめられています。トレッキングポールを保護するための機構ですが、その分自分が苦しんでいるのかなと。
川で流されそうになった時の話
PCTでは何度も渡渉しました。ある日、流れの速い川で足を滑らせ、僕はとっさにポールを川底へ突き刺します。
「助かった。」
そう思った瞬間、アンチショック機構が作動しました。急に突き出したポールは見事に支えとなったのですが、ポールが数センチ沈み込み、支えられると思っていた身体が一気に崩れます。
そのまま顔から川へ飛び込むことに。幸い大きな怪我はありませんでしたが、あの瞬間、僕の中では「アンチショックはいらない」という結論になりました。
DABADAで良かったところ
正直なところ、5000km以上お使い込めるとは思っていなかったです。国内の山を歩いている途中で追加した装備でしたが、PCT全部を歩ききるのは不可能だと思っていました。思ったよりも頑丈で、しっかりと最後まで持ってくれたのは想定外です。
- 思ったよりも頑丈で使い込める
- ポールは曲がったけど折れなかった
- 少し重たいけど気にならない程度
- 歩くだけであれば必要十分
冬山をするには欠片も信用できませんが、雪なしの場所を歩く分には大丈夫かなという感じです。
安価なトレッキングポールでも大丈夫
僕が使用しているのは、DABADAやNatureHikeなどの軽量かつ安価なトレッキングポールです。DABADAのトレッキングポールに関してはPCTでも利用しましたが、途中で曲がることはありましたが破損はしませんでした。流石に、収納できなくなってしまった為に廃棄してきました。
上記二つのメーカー以外にも、幾つかおすすめのモノがあります。
トレッキングポールの値段に関して
値段に関しては、本当にピンキリです。先ほど紹介したような安価な商品もあれば、高価な1万円以上するようなポールもたくさんあります。モンベルでは高品質な商品を安価に手に入れる事ができますが、LEKIやブラックダイヤモンドなどのブランド物はかなり高価になっています。その分、性能も高く頑強であると思いますが、中華製のモノでも長持ちはします。
高級ストックはやっぱり良かった
PCTでは、LEKIやブラックダイヤモンドを使っているハイカーも非常に多くいました。実際、忘れ物を届けるために、知人のLEKIを少しだけ借りたことがあります。その時に感じたのは、「やっぱり全然違う」ということでした。
グリップが圧倒的に握りやすい
まず驚いたのが、グリップです。DABADAのてきとうな構造とは違い、自然に手へ馴染み、長時間握っていても疲れません。手汗をかいても滑りにくく、安心して体重を預けられます。
LEKIなどのトレッキングポールは、軽量化の余念がなく無駄を完全に排しながらも頑強さはしっかりと維持されています。グリップの種類も多く、豊富な選択肢の中から自分にとって最適だと思うモノをスタイルに合わせて購入可能です。
細かい部分ですが、毎日使う道具だからこそ、こうした差が積み重なります。
ロック機構の安心感が違う
固定部分もしっかりしています。力いっぱい体重を掛けても、縮みそうな不安がありません。この安心感は、ふいに力をかけすぎてしまう急斜面ほど実感します。
「絶対にここで縮まない」
そう思えるだけで、歩き方まで変わります。やはり、不安や疑念を抱えたままの山行は、ちょっと気が張ってしまうし、上手に集中するのに時間が必要なこともあります。LEKIでは「スピードロックシステム」を採用しており、手軽に強固に固定できるシステムを構築し採用しています。
ワンポールテントなら高級モデルがおすすめ
もし、トレッキングポールでテントを設営するなら、僕はLEKIやブラックダイヤモンドをおすすめします。理由は簡単で、設営にも使うからです。
歩行中だけなら多少曲がっても問題ありません。しかし、テントを支えるポールまで曲がってしまうと、設営できなくなる可能性があります。
PCTでも、折れたカーボンポールを前に困っているハイカーを何人も見ました。軽量化には非常に優れていますが、その分、一本のポールへ役割を集約していることも理解しておく必要があります。
アルミとカーボン、どちらがおすすめ?

結論から言えば、僕はアルミを選びます。理由は、曲がっても歩けるから。これに尽きます。軽量だけど、カーボンの「もしも折れたら」という感覚にはどうにも慣れません。それに、アルミでも重量が過度に重たいわけではない、というのも理由の一つです。
アルミは折れにくい
PCTでは、先端が大きく曲がりました。それでも、約1,000km歩き続けました。多くのハイカーから「それ、大丈夫?」と心配されましたが、結構普通に使えていました。
アルミは、限界まで力が掛かると曲がります。しかし、急に真っ二つになることは少ない。これはロングトレイルでは大きなメリットです。多少曲がっても、力のかけ方を工夫しながら使えば、どうにか次の町までは利用できますからね。
流石にテントの設営などは難しいと思いますが。
カーボンは軽い。でも折れることがある
一方、カーボンは非常に軽量で頑丈です。振り心地も良く、長距離歩くなら魅力があります。正直なところ、資源が無限であれば欲しい所です。ただ、一度折れてしまうと基本的には修理できません。
PCTでも、折れて買い替えている人を何人も見ました。先端だけ安価な模造品に買い替える方法もありますが、Amazonなどで送り届けるのも結構面倒です。
- 軽量性を優先するならカーボン。
- 耐久性と安心感ならアルミ。
僕なら、もう一度PCTを歩くとしてもやはりアルミを選びます。
6000km歩いた僕の結論
トレッキングポールは、僕にとって「歩行補助器具」です。残念ながら、それ以上もそれ以下もありません。もっと長く、もっと安全に、もっと遠くまで歩くための道具です。
実際、0Day明けなど体力が十分ある日は、ポールを使わずに歩くこが多かったです。その方が自由で、気持ち良く歩けるからです。
しかし、20km、30kmと歩き続けると、自然とポールを手に取っています。歩行姿勢が安定し、足の疲労が減り、翌日に疲れを残しにくい。この積み重ねが、数百km、数千kmという距離では大きな差になります。
だから僕は、ロングトレイルやテント泊縦走をするなら、トレッキングポールは間違いなく持っていきます。超高級モデルである必要はありません。
まずは自分に合った一本を見つけて、実際に山で使ってみてください。きっと、「なぜ多くのロングトレイルハイカーがストックを使うのか」が分かるはずです。
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