登山・ハイキングに必要な水分量と算出方法に関して

知識や経験
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登山やハイキングで意外と悩むのが、「水を何リットル持っていけばいいのか」という問題です。少なすぎれば脱水症状や熱中症の危険がありますが、多すぎれば1Lごとに約1kg重くなり、歩行の負担になります。

僕はこれまでPCT約4,200kmと国内ロングトレイルを合わせて6,000km以上歩いてきました。その経験から言えるのは、「とりあえず3L持てば安心」という単純な話ではありません。必要な水分量は気温・荷物・行動時間によって大きく変わります。

この記事では、実際の経験と『ハイキングの科学』で紹介されている計算式をもとに、登山で必要な水分量を分かりやすく解説します。

結論|登山で必要な水分量の目安

登山の水分計画では、「一日に必要な水分量」と「スタート時に背負う水の量」を分けて考えることが重要です。僕は日帰り登山では、ざっくり次のような感覚で水を準備しています。

行動時間春・秋真夏
1〜2時間0.5〜1L1〜1.5L
3〜4時間1〜1.5L1.5〜2.5L
5〜6時間1.5〜2.5L2.5〜3.5L
7〜8時間2〜3L3〜5L

迷ったら春秋は2L、真夏の日帰りは3Lを一つの基準にするのがおすすめです。

ただし、この数字はあくまで目安です。水場の有無や荷物の重さ、気温によって必要量は増減するため、後半で紹介する計算方法を使い、自分に必要な水分量を考える方法を紹介します。

登山で必要な水分量は人によって大きく違う

運動中に失う水分量、つまり発汗量には大きな個人差があります。同じ気温、同じコースを歩いていても、汗をほとんどかかない人と、シャツを絞れるほど汗をかく人では必要な水分量が変わります。

ACSM(American College of Sports Medicine)も、発汗量や汗に含まれる電解質には個人差が大きいため、個別の水分補給計画を推奨しています。発汗量は運動前後の体重を測ることで推定できます。

つまり、「登山=1時間500mL」のような一律の数字だけで考えるより、「自分はどれくらい汗をかく人なのか」を知る方が重要です。

水分不足が登山で問題になる理由

水分不足が進むと、運動能力や体調に影響します。

ACSMのポジションスタンドでは、運動中の水分補給について、過度な脱水を避けることと、電解質バランスの大きな変化を避けることが重要だとされています。特に、体重の2%を超える水分不足を避けることが一つの目標として示されています。

例えば体重60kgなら60kg × 2% = 1.2kgです。体重変化を単純に水分損失とみなせる条件なら、1.2kg程度の減少は約1.2Lの水分損失に相当します。ただし、これは「2%減ったら突然危険になる」という意味ではありません。

登山中の体調は、気温、湿度、運動強度、日射、標高、睡眠、食事など、さまざまな条件に左右されます。そのため、体重の数字だけで安全・危険を判断するのではなく、自分の発汗量を知るための目安として利用するのがよいでしょう。

なぜ登山で水分補給が重要なのか

登山中の水分補給には、大きく3つの役割があります。

  • 熱中症の予防
  • 脱水症状の予防
  • 判断力・パフォーマンスの維持

特に登山では、喉が渇く頃にはすでに脱水が始まっていることも少なくありません。

体重の1.5〜2%失うだけで判断力は低下する

運動中は汗によって水分が失われます。

体重の約1.5%の水分を失うだけでも、作業能力や集中力が低下し、不安感が増えることが報告されています。2%を超える頃には頭痛やめまいなどの症状が現れやすくなります。

脱水の程度主な症状
約1.5%集中力低下・判断力低下
約2%頭痛・めまい・疲労感
3%以上嘔吐・著しい脱力
重度意識障害・救急対応が必要

登山では道迷いや転倒が命に関わります。脱水は「喉が渇くだけ」の問題ではなく、安全に直結するリスクです。

頭痛は結構まずい

登山やハイキングでは脱水が原因の頭痛を何度も経験しています。あたらめてこの表を見ると、「結構ヤバい状況だな」というのが分かります。夏場では、山頂でクールダウンをしていない時間では常に汗をかき続けており、脱水症状に陥りやすいです。それ以上脱水が進むと、嘔吐になり登山ができなくなります。

PCTでは疲労感で脱水に気が付いた

PCTでモハーベ砂漠を歩いている時は、極度の疲労感を感じていました。水を飲み日陰でゆっくりと休憩したら、歩けるようになりましたが思い返せば脱水症状なのでしょう。長時間の直射日光と炎天下に晒され続け、水分は必要最低限。温存を考えすぎて、飲み切れていませんでした。正直、きつかったです。

脱水症状の初期サイン

次の症状が出始めたら、水分不足を疑いましょう。

  • 喉の渇き
  • 尿が少なく濃い色になる
  • 口の乾燥
  • 軽い頭痛
  • めまい
  • 集中できない
  • 身体がだるい

冬山でも乾燥によって脱水は起こるため、夏だけの問題ではありません。冬時期は、夏場よりも脱水に気が付かないため注意しましょう。

「喉が渇く前に大量に飲む」は必ずしも正解ではない

以前の僕は、「喉が渇く前にこまめに水を飲む」という考え方をしていました。しかし、現在の運動・野外医学の考え方では、単純に「喉が渇く前にできるだけ飲む」とするのは適切ではありません。

Wilderness Medical Society(WMS)の運動関連低ナトリウム血症のガイドラインでは、予防策として喉の渇きに従って飲むことが推奨されています。これは、「水を我慢しろ」という意味ではありません。喉が渇いているのに水を飲まないのも問題です。

脱水が怖いから、とにかく大量に飲む

という考え方も危険です。重要なのは、自分の発汗量と環境に合わせて、水分を補給することです。

低ナトリウム症の症状

症登山では水不足だけを心配しがちですが、水分を摂りすぎることにも注意が必要です。大量の水分を摂取し続けると、血液中のナトリウム濃度が低下する「運動関連低ナトリウム血症(EAH)」を起こすことがあります。

WMSは、EAHについて「できるだけ大量に飲む」という考え方が危険であり、過剰な水分摂取が重要なリスク要因になるとしています。ハイキングなどの野外活動でも発生する可能性があります。

症状としては、

  • 頭痛
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • めまい
  • 倦怠感
  • 意識の変化
  • 重症ではけいれんや意識障害

などがあります。ここで注意したいのは、「水だけが悪い」という単純な話ではないことです。EAHは電解質を含む飲料でも、必要量を超えて大量に摂取すれば起こり得ます。したがって、

「水を飲みすぎないように、スポーツドリンクならいくらでも飲んでいい」

という考え方も適切ではありません。基本は、喉の渇きや自分の発汗量を基準に、必要な量を補給することです。

では、1時間に何mL飲めばいい?

ここは登山者が特に知りたいところだと思います。しかし、現在のガイドラインを踏まえると、「誰でも1時間に○mL」という絶対的な数字を設定するのは難しいというのが実際のところです。

ACSMは個人の発汗量に応じた水分補給を推奨しており、WMSも長時間の運動では個人の必要量を把握するために、体重変化から1時間あたりの水分損失を推定する方法を紹介しています。

例えば、

  • 1時間で体重が0.5kg減った
  • その間に500mL飲んだ

のであれば、単純計算ではその1時間の総水分損失は約1.0Lと推定できます。ただし、食事などから摂取した水分や尿量なども関係するため、これはあくまで実用的な推定値です。だからこそ、他人の「1時間500mL」という数字をそのまま真似するのは危険です。

僕は、自分の汗の量を一度測ってみることをおすすめします。必要に応じて電解質も補給することが大切です。水だけ飲んでいれば安全は、誤情報です。

登山で必要な水分量を計算する方法

目安だけでなく、自分に合った必要水分量は計算することもできます。これは、様々な計算方法があります。あくまで目安だと思っておきましょう。もちろん、予備の水も余裕があれば運びたいですね。

最も簡単なのは計測をすること

登山開始前と登山後の体重変化から、失った水分量を推定することができるようです。同じような服を着て、計測を行い途中で補給した水分量を加味(失った体重+補給した水分量)します。これにより、登山をしている間に失った水分を大まかに把握できます。

最後に、これを行動時間で割ることで一時間当たりの水分量を計算できます。

簡単に計算する方法

日本山岳・スポーツクライミング協会の現在の登山安全情報では、必要な水分量(mL)=体重(kg)×行動時間(時間)×5という簡易式が紹介されています。

例えば体重60kg、行動時間6時間なら、60 × 6 × 5 = 1,800mLとなります。つまり約1.8Lです。

簡単にこの式を使用して算出したデータを表にまとめておきました。

行動時間体重+荷重必要水分量
650kg1.5L
660kg1.8L
670kg2.1L
680kg2.4L

より正確な脱水量の計算式

『ハイキングの科学』では、気温と運動強度(METs)を含めた計算式が紹介されています。

脱水量=(0.0176×気温+0.315)×METs×体重×時間

  • 気温が高いほど発汗量が増える
  • 荷物が重いほど必要水分が増える
  • 運動強度が高いほど脱水量が増える

この式を利用すると、単純に「体重×時間」だけでなく、気温と運動強度を考慮できます。ただし、この記事で重要なのは、計算結果を「絶対に必要な水分量」として扱わないことです。登山中の水分損失には個人差があり、実際の発汗量を測定した方が、自分自身の水分計画には適しています。。

二つの計算結果を比較してみる

簡単にですが、水分量の比較をしてみましょう。計算数値上の話ですが、下記のような状況になります。(今回は6時間・20℃・7METsで計算している)

体重+荷重山岳会ハイキングの科学差
50kg1.50L1.40L-0.10L
60kg1.80L1.68L-0.12L
70kg2.10L1.96L-0.14L
80kg2.40L2.24L-0.16L

基本的には、同じ重量と時間では「山岳会の方がやや多い」計算結果になっている。ただ、ハイキングの科学で紹介されている脱水量の計算式では、気温まで考慮されている事から気温条件を変更すると一気に変わる。

僕が実際に持ち歩く水分量

理論だけでなく、実際の携行量も紹介します。

山行の条件出発時の携行量
春の低山(日帰り)1.5L
20kmおきに補給のできるロングトレイル1.5〜2L
北アルプス夏(日帰り)約3L
水場のない稜線4〜5L
PCT砂漠区間5〜6L

意外かもしれませんが、ロングトレイルでは常に大量の水を持っているわけではありません。水場の位置が分かっている日は2〜3L程度で歩き、次の水場までの距離に応じて補給量を調整しています。

水がなくなるのが怖い

僕は水がないという状況が怖い為、常に多めに水分を持ち運んでいます。一日の脱水量が2L程度で2L程度の水分を持っていれば十分、というのは知識としても経験としても知っています。身をもって納得しているのですが、やはり不安と緊張は嫌です。「水場があるだろうか」「水が持つだろうか」などを考えるくらいなら、「最初から担ぐ」というスタイルになります。

PCTのモハーベ砂漠で水分不足を経験した

僕自身、水分不足の怖さを実感した経験があります。PCTのモハーベ砂漠を歩いていたとき、極端な疲労感を覚えました。長時間の直射日光と暑さの中を歩き、水も必要最低限に抑えていました。

当時は水を温存することを考えすぎていて、十分に飲めていませんでした。日陰で休み、水を飲んでしばらく休憩すると、再び歩けるようになりました。当時の状態を現在の医学的な診断として「脱水だった」と断定することはできません。

ただ、水分を十分に取らず、暑い環境で歩き続けることの怖さを実感した経験ではあります。それ以降、水の携行量についてはかなり慎重に考えるようになりました。

水場がある縦走は「携行量」と「必要量」を分けて考える

必要水分量が4Lでも、必ず4Lを背負うとは限りません。例えば山小屋や沢で補給できるなら、実際の携行量は半分程度に抑えられます。

条件必要量出発時
春秋の日帰り3〜4L1.5〜2L
真夏の日帰り4〜5L2〜3L
水場なし縦走4〜5L4〜5L

この「必要量」と「携行量」を分けて考えるだけで、ザック重量をかなり減らせます。軽量化をするのであれば、こうした判断も重要ですね。

「必要水分量」と「携行量」は違う

ここは登山初心者にもぜひ覚えてほしいところです。例えば、その日の必要水分量が3Lだったとします。途中に2回、水場があるなら、最初から3L持っていく必要はありません。

出発時に1.5L持ち、途中で1L補給し、さらに1L補給する。これなら、最大携行量を抑えながら3.5Lの水を利用できます。逆に、「必要量は3Lだから3Lだけ持てばいい」とも限りません。

水場が枯れている可能性や、予定より行動時間が延びる可能性があるからです。そのため、僕は水分計画を、分けて考えるようにしましょう。

  • その日の必要量
  • 途中の補給地点
  • 補給できない区間
  • 予備として残す量

ロングトレイルでは水をどのくらい残すか

テント泊やロングトレイルでは、基本的には次のようなことを意識しています。

  • 調理用
  • 次の日の行動分
  • 就寝前に飲む分
  • 翌朝の朝食用

これらを考慮し、1L前後を残すようにしていました。夜中に喉が渇いて眠れなくなることは意外と多いので、行動終了時の水も計画に入れておくと安心です。山小屋が近い場合は、山小屋で気持ち多めに購入しておくと、良いでしょう。

水分補給は「一気飲み」より、自分に合ったペースで

長時間歩くと、休憩したときに一気に水を飲みたくなります。僕自身は、ロングトレイルでは少しずつ飲むことが多いです。ただし、「15〜20分ごとに必ず○mL」というルールを全員に当てはめる必要はありません。

WMSのガイドラインでも、基本的には喉の渇きに従って飲むことが推奨されています。重要なのは、喉が渇いているのに我慢しない。そして、脱水が怖いからといって、必要以上に大量の水を流し込まない。この両方です。

汗を大量にかく日は電解質も考える

汗には水分だけでなく、ナトリウムなどの電解質も含まれています。長時間の運動では、水分だけでなく電解質を含む飲料が役立つ場合があります。ACSMも、1時間を超えるような運動では、条件によって電解質や炭水化物を含む飲料が有用であるとしています。

ただし、「汗をかいたら必ず電解質飲料を飲まなければならない」という意味ではありません。短時間の軽いハイキングなら、普段の食事と水で十分な場合もあります。

  • 真夏
  • 長時間行動
  • 大量発汗
  • 水だけを大量に飲んでいる
  • 食事が少ない

といった条件では、電解質を含む飲料や食事について考える価値があります。

冬山でも水分不足になる

水分不足というと夏を想像する人が多いと思います。しかし、冬でも水分は失われます。運動による発汗に加えて、呼吸によっても水分は失われます。また、寒い環境では喉の渇きを感じにくいことがあります。

そのため、「汗をかいていないから水はいらない」とは考えない方がいいでしょう。冬山では水が凍る問題もあるため、夏とは違う水分計画が必要です。

ハイドレーションと水筒、どちらがいい?

水分補給の方法にも、それぞれメリットがあります。ハイドレーションは歩きながら飲みやすいのが大きなメリットです。一方で、残量が分かりにくいという欠点があります。

僕はロングトレイルでは、ソフトボトルやペットボトルなどを組み合わせて使うことがあります。

特に長距離では、「どれだけ残っているか分かること」も重要です。水場まであと何kmなのか、残量はどれくらいなのか。これを確認しながら歩けると、水分計画が立てやすいです。

よくある質問

Q. 日帰り登山なら2Lで足りますか?

春秋なら多くの山で足りることが多いです。ただし真夏や標高差が大きいコースでは3L程度を目安にしてください。日帰りだから安心、という事はありません。体力次第では、富士山などの大きな山も日帰りで行けます。

Q. ハイドレーションと水筒はどちらがおすすめ?

こまめに飲める点ではハイドレーションが便利ですが、残量が見えにくいという欠点もあります。僕はソフトボトルとペットボトルを併用することが多いです。ハイドレーションを使用する場合は、慣れも必要ですが、個人的にはおすすめです。

Q. 電解質は毎回必要ですか?

短時間の軽い登山なら水だけでも問題ないことが多いですが、真夏や大量に汗をかく日はスポーツドリンクや電解質タブレットを併用すると安心です。電解質は摂取してすぐに効果があるわけではない為、効果的にタイミングを見て摂取しましょう。

Q.熱中症は高山でもなりますか?

標高の如何に寄らず、直射日光をん長時間浴びる事により熱中症になる可能性があります。日本の山々でも、森林限界を超えると太陽光が厳しく、地面からの照り返しも容赦ありません。水分の摂取は必要不可欠だと思います。

Q.結局度の計算式が良いの?

実際に6,000km歩いて感じるのは、春秋は山岳会の簡易式で十分実用的です。一方で、真夏や荷物が重い縦走では、気温まで考慮した『ハイキングの科学』の計算式の方が、実際の必要水分量に近いと感じています。

まとめ

登山の水分量に絶対の正解はありません。

しかし、行動時間・気温・荷物を基準に必要量を考えれば、「重すぎる」「足りない」という失敗は大きく減らせます。僕自身も6,000km以上歩く中で、春秋は約2L、真夏は約3Lを一つの基準にしながら、水場の位置を見て調整してきました。

まずは今回紹介した目安を基準に、自分の歩き方や季節に合わせた水分計画を立ててみてください。

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