疲れない登山の歩き方|登り・下りのコツを実体験と科学的根拠から解説

ロングトレイル
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登山では体力がある人ほど速く歩けると思われがちです。しかし、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を4200km歩き、日本国内も含めて6000km以上歩いてきた僕が実感したのは、疲れない人ほど無駄な動きをしていないということでした。

スポーツ医学や登山の歩行に関する研究を調べると、経験的に身につけた歩き方の多くが科学的な考え方とも一致していました。

この記事では、6000km以上歩いた実体験と科学的な知見をもとに、疲れにくく長く歩き続けられる登山の歩き方を紹介します。

疲れない登山の歩き方は「無駄な動きを減らすこと」

登山では「頑張って歩く」よりも、「無駄な動きを減らして歩く」ことが重要です。一歩の違いはわずかでも、それを数万歩繰り返せば大きな疲労の差になります。

僕がロングトレイルで意識していたのは、「楽をする歩き方」でした。急いで歩くことよりも、体をできるだけ自然に動かし、余計な力を使わないことを優先します。

この考え方は登山初心者にも上級者にも共通している基本だと思っています。

小歩幅・一定ピッチが疲労を減らす

歩幅を大きくすると速く歩けるように感じます。しかし実際には、大股になるほど太ももの筋肉を大きく使い、酸素消費量も増えてしまいます。僕も歩き始めた頃は、登りになると無意識に歩幅が大きくなっていました。

数時間後には太ももが重くなり、ペースを維持できません。そこで意識したのが、小歩幅で歩数を増やすことでした。歩幅を小さくすると一歩ごとの負担が減り、筋肉にかかる力の方向も安定します。

速度は少し落ちますが、その代わり疲れ方は大きく変わります。特にロングトレイルでは、一時間の速さより一日歩き続けられることの方が重要です。

科学的にも、小歩幅で一定のピッチを維持する歩き方は心拍数や酸素消費量を安定させ、疲労軽減につながるとされています。

「歩くのが遅い」と感じる人ほど無理に速度を上げようとすることがありますが、登山では遅くても一定のリズムで歩き続けられる方が結果的に速く目的地へ到着できることも少なくありません。

呼吸を乱さない歩き方のコツ

登りでは息を止めず、一定のリズムで呼吸を続けることを意識しています。特に「しっかり吐く」ことを意識すると呼吸のリズムが整いやすい印象です。結果的に、酸素も取り込みやすく感じました。無理に吸うよりも、定期的に吐くことを意識すると、心拍数が落ち着きやすいですね。

下りでも同様で、定期的な呼吸を心がけた方が良いでしょう。無理に吐き続けるよりは、緊張などで過呼吸にならない事、全身に酸素を行き渡らせる事を意識した方がいいでしょう。帰りは油断と疲労から呼吸が乱れている事が多いように感じます。

足裏全体で着地し、重心移動を滑らかにする

歩き方でもう一つ重要なのが着地です。かかとだけで強く着地したり、つま先だけで登ったりすると、膝やふくらはぎへ大きな負担がかかります。

基本は足裏全体で地面を捉え、衝撃を分散することです。また、体を上下に大きく動かさないことも意識していました。僕が考えていたのは、「動作を最小限にする」ということです。

無理に足を高く持ち上げたり、大きく膝を曲げたりするのではなく、必要最低限の動きで前へ進みます。歩くという動作を一つひとつ小さくすると、それだけエネルギー消費も少なくなります。

この感覚はロングトレイルを歩いていると特に実感しました。一歩だけなら違いは分かりません。しかし、それを一日4万歩近く繰り返すと、夕方には疲労の差となって現れます。

荷物が重いほど荷重が重要になる

ザックが軽い登山なら、多少歩き方が乱れても大きな問題にはならないなと感じています。しかし、テント泊やロングトレイルでは10kgを超える荷物を背負うこともあります。荷物が重くなるほど歩き方の影響は大きくなります。

僕が意識していたのは、ザックの荷重を肩だけで支えず、腰へしっかり預けることでした。腰ベルトを適切に締め、骨盤で荷重を受けることで肩や背中への負担を減らせます。

また、体を左右へ大きく揺らさず、ザックを振り子のように小さく揺らすイメージで歩くと、無駄なエネルギーを使わずに済みます。

装備の軽量化も疲労軽減につながる

もちろん歩き方だけでは限界があります。装備を軽量化することも疲労軽減には非常に効果的です。荷物が軽くなるほど姿勢が安定し、自然と歩き方も良くなります。登り・下りで歩き方を変えると疲れ方が大きく変わる

平地と同じ歩き方では、登山は長く歩き続けられません。登りと下りでは体へかかる負荷が大きく異なるため、それぞれに適した歩き方があります。

僕自身、PCTを歩いていて一番変化を感じたのも、この登りと下りの歩き方でした。

登りは速度よりリズムを優先する

登りになると、多くの人は無意識に歩幅が広くなります。一歩で少しでも高度を稼ぎたくなるからです。しかし、この歩き方は太ももへの負担が大きく、長時間歩くとすぐに疲れてしまいます。

僕が意識していたのは、登りでは速度を捨てることでした。急ぐのではなく、歩数を増やします。歩幅を小さくし、一定のテンポで足を前へ運ぶだけです。

すると、一歩ごとの筋肉への負担が減り、結果的に長時間歩き続けられるようになります。

重心の移動も適切に

後ろ足に体重を残したまま蹴り出すのではなく、足を出すと同時に重心を前へ移していくことも重要です。重心移動が滑らかになると、無駄な力を使わず登れるようになります。

登山では「速く登る人」が体力を温存しているとは限りません。疲れない人は、自分が維持できるリズムを崩さず歩いています。

ロングトレイルでは、それが何時間も歩き続けるための最大のコツでした。

下りは「踏ん張る」のではなく「支える」

登り以上に歩き方が重要なのが下りです。下山で膝を痛める人が多いのは、一歩ごとに膝でブレーキを掛けているからです。

僕もPCTの途中で膝を痛めるまでは、下りでは踏ん張るように歩いていました。意識していても、気が付いた時には、というパターンが多々ありました。しかし、それでは何万回も膝へ大きな衝撃を与え続けることになります。

下りで膝を痛めない歩き方

歩き方を見直してからは、「踏ん張る」のではなく、「支える」という感覚を意識するようになりました。力いっぱい膝を固定するのではなく、足の力を少し抜き、自然に足が前へ出るようにします。

着地の瞬間だけ体を支え、そのまま滑らかに次の一歩へつなげるイメージです。また、重心は極端な後傾姿勢にならないよう注意しました。下りが怖いと腰が引けてしまいますが、この姿勢は足が前へ滑りやすくなり、転倒の危険性も高まります。

少しだけ前荷重を意識し、足裏の中心付近へ体重を乗せる方が、結果的に安定して歩けました。

さらに、着地音をできるだけ立てないことも目安になります。「猫のように歩く」と表現されることがありますが、静かに着地できているということは、関節が衝撃をうまく吸収できている証拠でもあります。

足音が大きい歩き方は膝への負担が大きい

着地時に、足の裏から「ドンッ」と音がする時は結構力を入れて踏ん張っている事が多いように思います。もちろん、傾斜や地面の質によっては力を入れて踏ん張ることになるでしょう。崖が目の前で踏ん張りを効かせないと滑落する時もあると思います。

しかし、そうではないような状況であれば、後ろ荷重をやめてみると意外と足音が小さくなります。ドンドンバタバタ音を鳴らしながら歩いていると、足裏だけではなく膝を痛める事になります。要注意事項です。

膝には常に余裕を持たせる

下りでは膝を伸ばしきるのではなく、少し曲げて余裕を持てるようにしましょう。その方が、足のクッションをより効果的に活用することができます。膝を伸ばしきらず、気持ち前かがみ(前傾姿勢)で歩くと、歩きやすいですね。

トレッキングポールを使うと疲労を減らせる

歩き方と合わせて活用したいのがトレッキングポールです。以前は「疲れた人が使う道具」という印象を持っていましたが、ロングトレイルでは考え方が変わりました。ポールは転倒防止だけでなく、上半身も使って歩くための道具です。

腕や肩の筋肉を使うことで、下半身へ集中する負荷を分散できます。特に下りでは、膝へ掛かる衝撃を和らげる効果を強く感じました。

ポールは二本使って初めて意味がある

科学的にも、ダブルポールを使用すると下肢への荷重を10〜20%程度軽減できるという報告があります。また、登りと下りで長さを調整するとさらに使いやすくなります。

登りでは少し短めに設定すると腕で押しやすくなり、下りでは少し長めにすると自然な姿勢で衝撃を受け止められます。ポールを使うことは決して楽をすることではありません。

長く歩き続けるために体への負担を分散する、効率的な歩き方の一つだと考えています。

僕が歩き方を見直した理由|PCTで膝を痛めた経験

ここまで歩き方について解説してきましたが、実は僕自身、最初からこの歩き方ができていたわけではありません。むしろ、PCTでは歩き方の大切さを身をもって知ることになります。

膝を痛めて歩けなくなった

PCTの途中、僕は膝を痛めました。最初は少し違和感がある程度だったので、「そのうち治るだろう」と考えて歩き続けていましたが、その判断は間違いでした。

数日後には膝の痛みが悪化し、少しの下りで膝に負担がかかると痛い。途中からは、歩くだけでも苦痛を感じるようになりました。膝の周囲はパンパンに腫れ上がり、テントから立ち上がるだけでも時間がかかるほどでした。

翌朝も痛みは消えません。それでも次の町までは歩かなければならず、足を引きずるように前へ進みました。シエラの最後の区間で、最後の町Late Tahoeに向かっている時ですね。この時は、動画内では黙っていましたが、右膝周りが腫れ上がり、街についたときに多くの仲間に心配されました。

ロングトレイルこそ歩き方が重要

ロングトレイルでは「今日は休めばいい」という選択が簡単にはできません。止まるという事は、進むことも引き返すこともできないからです。また、引き返せば楽である補償もないのが、恐ろしい所です。

次の補給地点まで何十kmも離れていることも珍しくなく、痛みを抱えたまま歩き続けなければならない場面があります。この経験から、僕は「歩き方は疲労だけではなく、怪我にも直結する」と痛感しました。

歩き方を変えて実感したこと

膝を痛めてからは、「どうすれば膝へ負担を掛けずに歩けるか」を常に考えるようになりました。まずやめたのは、急いで歩くことです。早く目的地へ着きたい気持ちはありましたが、急ぐほどフォームは崩れ、一歩ごとの負担が大きくなります。

  • 歩幅を小さくする
  • 一定のリズムを崩さない
  • 無駄な動きを減らす
  • 下りで踏ん張らない

基礎基本のこの点に立ち返り、北カリフォルニア以降はゆっくり歩くようになりました。劇的に速く歩けるようになったわけではありません。しかし、一日の終わりに残る疲労感は徐々に変わりました。

長距離登山で疲れを残さない歩き方

疲労を翌日に持ち越さなくなることで、何週間、何か月という長い期間歩き続けられるようになります。重要なのが、「頑張らないこと」というのは結果的に優れているという事でした。

毎日限界ギリギリを攻めるのではなく、適度に歩き適度に休む。歩ける分だけ、適当に歩く。それが、結果的に一番遠くまで歩けるということです。

一歩一歩は楽をする。その積み重ねが、数千kmという距離を歩くことにつながるのだと思います。

科学と実体験は一致していた

PCTを歩き終えた後、自分の歩き方を改めて調べてみると、スポーツ医学や登山に関する研究で紹介されている内容と、多くの点が一致していました。

  • 小歩幅・一定ピッチで歩く
  • 足裏全体で衝撃を受け止める
  • 重心移動を滑らかにする
  • ダブルポールで下半身の負担を分散する
  • 休憩は最低限で基本は行動し続ける事

といった考え方です。もちろん、研究を知らなくても歩くことはできます。しかし、経験だけでは「なぜ疲れにくくなったのか」を説明できません。逆に、科学的な知識だけでは、実際に何千kmも歩いた時の感覚までは分からないでしょう。

分かりやすい歩くコツ三点(簡易まとめ)

  • 息が乱れない「ゆっくりペース」を守る (会話ができるくらいの歩行スピード)
  • 無駄な加減速や急立ち止めを減らし、一定のリズムで歩く
  • 休憩は「短く・回数を抑えて」 (立ち休憩で水分を補給する程度にし、長休止で体を冷やしすぎない)

僕にとっては、この三つの事を意識して歩くことが重要でした。特に会話のできるペースというのは重要で、登山中に会話しながら歩けるように心がけると、疲れずらいです。

まとめ

登山で疲れにくく歩くためには、体力だけに頼るのではなく、歩き方を見直すことが大切です。

  • 歩幅は小さくし、一定のピッチで歩く
  • 足裏全体で着地し、無駄な上下動を減らす
  • 登りは速度よりリズムを優先する
  • 下りは踏ん張らず、衝撃を滑らかに受け流す
  • ザックの荷重は腰へ預け、必要に応じてトレッキングポールも活用する

僕自身、6000km以上歩く中で一番強く感じたのは、「頑張って歩く人」よりも「無駄なく歩く人」の方が、結果として長く歩き続けられるということでした。

これから登山を始める方も、すでに登山を楽しんでいる方も、ぜひ今回紹介した歩き方を意識しながら、自分に合ったフォームを探してみてください。きっと、これまでよりも楽に、そして長く山歩きを楽しめるようになるはずです。

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