ハイキングで必要なファーストエイドキットの中身|必要なもの、不要なもの

知識や経験
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ハイキングや登山に行くとき、「ファーストエイドキットを持っていったほうがいい」と言われることがあります。実際、アウトドアショップで販売されているファーストエイドキットを見ると、さまざまなものがセットになっています。

しかし、すべてを使うわけではありません。僕はこれまでの総歩行距離は、6,000kmを超えています。その経験から、現在の僕がハイキングで持ち歩いているファーストエイドキットは、意外とシンプルです。僕が重視しているのは、「山で起こりやすく、自分で対処できるトラブルに備えること」。

反対に、自分で対処できないような大きな事故については、ファーストエイドキットを充実させることだけでは解決できません。

この記事では、僕が実際に持ち歩いているものと、あまり必要性を感じなくなったものを紹介します。

※この記事では、一般的なハイキングを想定しています。季節、山域、単独行かどうか、行動時間、海外か国内かによって必要な装備は変わります。薬についても、持病やアレルギー、服用中の薬などによって適否が異なるため、必要に応じて医師・薬剤師へ相談してください。

僕がハイキングで持ち歩いているファーストエイドキット

ファーストエイドキットというと「ケガをしたときに使う救急セット」というイメージがあります。しかし、長距離を歩いていると、実際に困るのは必ずしも大きな外傷ではありません。

むしろ多いのは、マメ、靴ずれ、小さな傷、テーピングが必要になるような痛み、胃腸の不調などです。そこで僕は、「実際に使う可能性が高いもの」を中心に持ち歩いています。

僕が持ち歩いているもの一覧

種類持ち物主な用途
傷・皮膚絆創膏小さな傷、靴ずれ
傷・皮膚軟膏皮膚トラブル
マメ対策テーピングマメ、擦れ、保護
マメ対策マメ処理用品マメができたときの処置
衛生ティッシュ傷の周辺処理など
薬鎮痛剤頭痛などの痛みへの対処
薬下痢止め急な下痢への対処
薬整腸剤・胃腸薬胃腸トラブル
薬風邪薬必要に応じて
道具ハサミテープ、布、糸などの切断
道具ピンセットトゲなどの除去
道具爪切り爪のトラブル
保護リップ・ワセリン唇や皮膚の保護
リペアダクトテープ装備の破損
リペアリペアテープテント・寝袋などの補修
リペアビニール帯 針金装備の固定・補修
リペア縫い糸など装備の補修
電源予備バッテリー・充電コード通信手段の確保

こうして見ると、「救急用品」というよりも、ハイキング中に起こる小さなトラブルをまとめて解決する道具箱に近いかもしれません。

一番使うのは「大ケガ」の道具ではない

長距離を歩いていて実感するのは、歩行を止める原因になるのは、必ずしも大きな外傷ではないということです。例えば足にマメができれば、そのまま歩き続けるだけでもかなり苦痛になります。

テーピングやマメ対策用品があれば、症状を悪化させずに歩き続けられる場合があります。逆に、骨折や重度の筋損傷など、自力でまともに歩けないような状態になれば、絆創膏や包帯を増やしたところで根本的な解決にはなりません。

ここはファーストエイドキットを考えるうえで、かなり重要なポイントだと思っています。

「応急処置できるトラブル」と「救助が必要なトラブル」は別

僕がファーストエイドキットを考えるときは、トラブルを大きく2つに分けています。

トラブル基本的な考え方
マメ・靴ずれ自分で処置して行動を調整
小さな擦り傷洗浄・保護
軽い皮膚トラブル軟膏などで対処
軽い胃腸トラブル水分・休養・必要に応じて薬
軽い頭痛など休憩・必要に応じて薬
大量出血止血を優先し、救助・医療につなげる
骨折無理に歩かず、救助・搬送を検討
自力歩行が困難な重傷行動継続ではなく救助を検討
意識障害・呼吸異常など緊急対応・救急要請

2024年のAmerican Heart Association(AHA)とAmerican Red Crossのファーストエイドガイドラインでも、重篤な出血、意識障害、呼吸異常、重度の痛み、骨折・脱臼などは、通常の応急処置だけで完結させるものではなく、医療につなげるべき重要な状態として扱われています。

つまり、ファーストエイドキットを豪華にすれば、山で起きるすべての事故に対応できるわけではありません。

僕が「必ずしも必要ない」と考えているもの

市販のファーストエイドキットには便利なものがたくさん入っています。しかし、僕自身のハイキングでは、ほとんど使わなかったものもあります。ここで注意したいのは、「誰にとっても不要」という意味ではないことです。

日帰りハイキング、縦走、ロングトレイル、冬山、単独行では必要な装備が変わります。僕の場合は、長距離を歩くという活動の中で使用頻度と重量を考えた結果、優先順位を下げているという話です。

三角巾や大量のガーゼは本当に必要なのか

市販のファーストエイドキットには、三角巾や大きなガーゼ、包帯などが入っていることがあります。しかし、一般的なハイキングで自分自身が負傷した場合、僕が実際に必要だと感じる場面はそれほど多くありませんでした。

特に「大きなケガに備えて、とにかく大量の医療用品を持つ」という考え方には疑問があります。大量出血などの重大な外傷では、まず必要なのは適切な止血です。AHA/Red Crossの2024年ガイドラインでも、生命を脅かす出血には直接圧迫を基本とし、傷の状態によっては創部へのパッキングや止血帯が検討されています。

つまり、「三角巾さえ持っていれば大丈夫」という話ではありません。重大な外傷に対応するには、道具だけでなく、その使い方を知っていることと、救助・医療につなげる判断のほうが重要です。

ポイズンリムーバーは僕は持っていない

ファーストエイドキットの中でも意見が分かれるのが、ポイズンリムーバーです。僕自身、ハチに刺されたときに使った経験があります。しかし、正直なところ、使ったことで「毒が抜けた」と実感できるような効果はありませんでした。

もちろん僕個人の経験だけで判断することはできません。そこで研究を調べてみると、ポイズンリムーバーのような吸引器によって毒を取り除く効果には、かなり大きな疑問があります。

Wilderness Medical Societyのガイドラインでは、模擬毒を使った人での研究で、吸引によって回収できた量は極めて少なく、全身の毒負荷に対する減少も臨床的に意味のあるレベルではなかったとされています。また、機械式吸引器そのものが局所的な組織損傷を起こす可能性も指摘されています。

2024年のAHA/Red Crossガイドラインでも、少なくとも北米の毒ヘビ咬傷について、吸引は毒の除去に有効ではなく、組織損傷を起こす可能性があるとして推奨されていません。

「2%しか抜けない」という話はどういうことか

よく引用される研究では、吸引によって全身の模擬毒負荷が約2%減少したにとどまりました。このことから、次のような話を聞くことがあります。

「毒はすぐ全身に回るから、ポイズンリムーバーには意味がない」

ココまで単純化するのは少し正確ではありません。より正確には、

毒を吸引によって取り除ける量そのものが非常に少なく、治療として十分な効果を期待できない

と考えるべきでしょう。まぁ、どっちにしてもあまり意味はないのですが……。

また、ヘビ咬傷については、切開して血を流す、吸引する、氷で冷やすなどの方法にも問題があります。AHA/Red Crossは、吸引や切開、氷による冷却について有効性が確認されていない、あるいは害になる可能性があるとして注意を促しています。そのため僕は、ポイズンリムーバー持ち歩きません。

毒の種類や生物によって対応は変わるため、刺傷・咬傷が疑われる場合は、自己流の処置で済ませるのではなく、適切な医療機関への相談・受診を優先するという考え方です。

消毒液も必ずしも必要ではない

「ケガをしたら消毒」というイメージがあります。しかし、現在のファーストエイドでは、すべての傷に消毒液を使うことが基本というわけではありません。

AHA/Red Crossの2024年ガイドラインでは、擦過傷などの表面的な傷は、異物がなくなるまで十分に洗浄することを推奨し、ポビドンヨードなどの消毒剤よりも流水や生理食塩水による洗浄を選択することが合理的としています。そのため、僕は「消毒液を持っていない=傷を放置する」という意味ではありません。

まず傷をきれいにして、必要に応じて保護する。この考え方です。そもそも、場合によってはそのきれいな水で洗う、という選択肢が取れない場合もあります。消毒以前の話ですね。

風邪薬は「必要な人だけ」でいい

ファーストエイドキットに風邪薬を大量に入れている人もいます。もちろん、普段から必要な薬がある人や、特定の症状に備えて携帯することには意味があります。ただ、僕自身は優先順位を下げています。

山で明らかに体調を崩してしまった場合、「風邪薬を飲んだから予定通り歩き続けよう」とは考えません。発熱や強い倦怠感など、行動を継続するのが難しい状態なら、休む、下山する、必要なら医療機関を受診するという判断をします。

薬で症状を隠して行動を続けることと、症状を軽減しながら安全に休むことは別の話です。

本当に重要なのは「大ケガに備えること」より撤退できる準備

ここまで読むと、「じゃあ、大きなケガをしたら何もできないじゃないか」と思うかもしれません。残念ながら、その通りです。想定するほど無駄です、サッサと救助を呼びましょう。

骨折や重度の筋損傷などでまともに歩けなくなった経験があると、これはかなり実感します。僕自身、膝の故障や筋肉の損傷を経験していますが、痛みでまともに歩けない状態になれば、テーピングや鎮痛剤だけで解決する問題ではありません。

鎮痛剤で無理やり歩くことを目的にしない

僕も鎮痛剤を携帯しています。ただし、「痛み止めを飲んで、どんな状態でも歩き続ける」ためではありません。痛みは身体からの重要な情報でもあります。特に外傷による強い痛みを薬で抑えて行動を継続する場合、症状を隠してしまう可能性があります。

したがって、鎮痛剤を持つことと「鎮痛剤で行動を継続すること」は分けて考えています。鎮痛剤で無理やり歩くことも少なからずありますが、無理をしていることに違いはありません。

予備バッテリーはファーストエイドキットと同じくらい重要

僕が長距離ハイキングで重要だと感じるようになったのが、予備バッテリーです。ファーストエイドキットに入れるものではありませんが、緊急時の安全装備として非常に重要だと考えています。

自分で解決できない事故が起きた場合、

  • スマートフォン
  • GPS
  • 衛星通信機器
  • SOS機能
  • 電話
  • メッセージ

などが使えるかどうかで状況は大きく変わります。だから僕は、ファーストエイドキットを軽量化するとしても、通信手段とその電源まで削ることは考えません。

「大ケガをしたときに何を持っているか」だけではなく、「自分では処置できない状態になったとき、どうやって助けを呼ぶか」まで考えておく必要があります。むしろ、救助を呼ぶ方が重要です。

エマージェンシーシートは「不要」ではなく、条件次第

エマージェンシーシートも、僕は普段のハイキングで使用する機会が多いとは感じていません。ただし、これは「不要」と断定するものではありません。日帰りの短時間ハイキングと、夜間の可能性があるロングトレイルでは意味が変わります。

  • 冬季
  • 悪天候
  • 長時間行動
  • 単独行
  • 道迷いの可能性がある場所
  • ビバークの可能性があるルート

では、緊急時の保温装備の重要性が高まります。持つのであれば、単に「アルミシートを1枚入れておけば安心」と考えるのではなく、実際に緊急時の保温に使えるものなのかまで考えて選びたいところです。

ファーストエイドキットと一緒に「リペアキット」も考えておきたい

長距離ハイキングでは、人間だけではなくギアも壊れます。僕の場合、むしろこちらのほうが頻繁に対応することがあります。テントや寝袋などをテント内でちまちまと修理することもあります。

僕が持ち歩いているリペア用品

道具用途
ダクトテープテント、ザック、ウェアなどの補修
リペアテープテントや寝袋の補修
ビニール帯破損箇所の固定
ハサミテープ・布・糸などの切断
縫い糸布類の補修
デンタルフロス緊急時の縫い糸代用
針金固定や補修に使用することがある

特にダクトテープは便利です。僕は3Mのものを使っていますが、テントやウェア、ザックなど、いざというときに意外と出番があります。

デンタルフロスを縫い糸にすることもある

縫い糸を持っていくこともありますが、面倒なときにはデンタルフロスをそのまま縫い糸として使うことがあります。ただし、これはあくまで応急的な方法です。

デンタルフロスは伸縮性がなく、一般的な縫い糸とは性質が違います。また、プラスチック系の素材なので、直接肌に触れる部分を縫う場合には違和感が出ることもあります。

「何でもデンタルフロスで直せる」という話ではありません。「忘れたときにも代用品になる」程度に考えています。

ファーストエイドキットの考え方

最終的に、僕がハイキングのファーストエイドキットで重視しているのは、「万が一の大事故をすべて自分で処理するための装備」ではありません。日常的に起こる小さなトラブルを自分で処理し、それでも対応できない事故が起きたときには、無理に行動を続けず、下山や救助要請につなげる事です。

ファーストエイドキットに「絶対に必要なもの」が決まっているわけではありません。日帰りなのか、縦走なのか、ロングトレイルなのか。単独なのか、複数人なのか。夏なのか冬なのか。それによって必要なものは変わります。

だからこそ、市販のファーストエイドキットをそのままザックに入れるのではなく、「自分の山行で実際に起こり得るトラブルは何か」「それを自分で処置できるのか」「自分で処置できない場合はどうするのか」を考えて、中身を決めることが大切だと思っています。

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