登山に行くなら登山靴を履く。僕が以前まで持っていた登山靴に対するイメージは、そんなものでした。ところが、PCTを歩いて考え方が変わりました。約4,200kmのロングトレイルでは、僕はトレランシューズを履いて歩きました。
ロングトレイルでは、トレランシューズを選ぶハイカーは珍しくありません。たとえばアメリカのアパラチアン・トレイル(AT)を対象にしたThe Trekの2025年スルーハイカー調査では、回答者279人のうち87%が行程の大半でトレイルランニングシューズを使用していました。2024年も86%、2023年は91%で、少なくともATではトレランシューズがロングトレイルの主要な選択肢になっています。
この記事では、なぜロングトレイルでトレランシューズを選んだのか。そして、どんな登山ならトレランシューズが向いていて、どんな環境では登山靴を選んだ方がいいのかを整理します。
トレランシューズのレビューはこちらより


結論:トレランシューズは登山でも使える。ただし「歩く場所」で選ぶ
最初に結論をまとめます。トレランシューズは非常に相性がいいんです、ロングトレイルと。
| 山行・環境 | 僕の考え |
|---|---|
| ロングトレイル | トレランシューズがかなり向いている |
| 長距離の縦走 | 条件が合えば向いている |
| スピードハイク | 向いている |
| 舗装路が多いルート | 向いている |
| 一般的な日帰り登山 | ルート次第 |
| ガレ場が長く続く登山 | 登山靴も検討したい |
| 重い荷物を背負う山行 | 足元の保護・安定性を重視したい |
| 雪山 | 基本的には別の靴を考える |
| 川渡りが多いルート | 乾きやすさを重視するなら非防水も選択肢 |
| 泥や雨が長時間続くルート | 靴の仕様と環境を合わせる必要がある |
僕が大事だと思っているのは、「トレランシューズか登山靴か」という二択ではありません。その日に歩く道に対して、どちらの長所が必要なのかを考える事だと思っています。
実際、PCTを歩くのにサンダルの方やクロックスの人だっています。
ロングトレイルでトレランシューズを履く人は多い

ロングトレイルでは、登山靴よりもトレランシューズを選ぶハイカーが多くいます。これは日本だけの話ではありません。アメリカのATを対象にThe Trekが毎年実施しているスルーハイカー調査を見ると、トレランシューズの使用率は長期的に高い水準にあります。
2025年の調査では、77%がトレランシューズでATをスタートし、最終的に87%が行程の大半でトレランシューズを使用していました。一方、登山靴は12%がスタート時に使用していたものの、行程の大半で登山靴を履いた人は5%でした。
2024年もトレランシューズは86%、2023年は91%が行程の大半で使用しています。もちろん、これはATを歩いた人を対象にした調査です。日本の登山者全体にそのまま当てはめることはできません。
それでも、長距離を何千kmも歩く人たちの間で、トレランシューズがどのように受け入れられているのかを見る資料としては参考になります。僕自身もPCTを歩いて、その理由を実感しました。
なぜロングトレイルでトレランシューズが使われるのか
僕が考える大きな理由は、次の4つです。
- 軽い
- 舗装路を歩きやすい
- 蒸れにくい
- 濡れた後に乾きやすい
この中でも、僕にとって特に大きかったのが「舗装路」と「乾きやすさ」です。休憩中の使用感と、濡れた時の速乾性には目を見張るものがあります。
軽い
トレランシューズは、一般的な登山靴より軽量なモデルが多くあります。ただし、「軽い靴なら何でもいい」というわけではありません。トレランシューズには、軽量なモデルから、岩場や悪路を想定して保護性能を高めたモデルまでかなり幅があります。
REIもトレイルランニングシューズを、比較的整備された道向けの「Light Trail」、より荒れた登山道向けの「Rugged Trail」、さらに厳しい環境向けの「Off Trail」というように、用途によって分類しています。
つまり、「トレランシューズ=薄くて弱い靴」と考えるのは少し違います。モデルによって性能はかなり違います。
舗装路を歩きやすい
僕がロングトレイルでトレランシューズを選ぶ最大の理由の一つです。山の中だけを歩いているなら、登山靴のメリットも大きく感じます。でも、ロングトレイルでは山だけを歩くわけではありません。
舗装された道路を歩くこともあります。町に下りれば、コンビニまで歩くこともあります。買い物をすることもあります。町を観光することもあります。次のトレイルヘッドまで道路を歩くこともあります。こうした時間が積み重なると、靴の違いがかなり気になってきます。
僕の場合、舗装路を一時間程度歩くだけでも、登山靴ではかなり疲労を感じます。特に、ロングトレイルでは「山を歩いた後に町まで歩く」という状況があります。その状態でさらに硬く重い靴を履いて歩き続けることが、僕にはストレスでした。
だから僕は、山だけではなく、その先の舗装路まで含めて靴を選ぶようになりました。REIも、トレランシューズは軽量で柔軟性があり、速いペースでの移動に適しているため、ファストパッキングやスルーハイキングで選ばれることがあると説明しています。
蒸れにくい
僕はロングトレイルでは基本的に非防水のトレランシューズを選びます。理由の一つが、足の蒸れです。もちろん、これは靴の素材によっても変わります。
ただ、トレランシューズではメッシュなどの通気性を重視したアッパーが使われているモデルが多く、僕自身は長時間歩いたときに足が蒸れにくいと感じています。夏場に何十kmも歩くなら、これはかなり重要です。
何時間も歩き続けていると、容易に足がふやけてしまいます。そうすると、豆ができるだけではなく自分の足を汚してしまうこともあります。実際、四国遍路で普通のスニーカーで歩いていた時に、台風に遭遇しましたが歩けるような状態ではありませんでした。
濡れた後に乾きやすい
これも僕が非防水を選ぶ理由です。ロングトレイルでは、完全に濡れないようにするのが難しいからです。
- 雨
- 川渡り
- 水たまり
- 湖
- 泥
- 汗
さまざまな原因で靴は濡れます。The TrekのPCT向け装備ガイドでも、ロングトレイルでは足が濡れることを前提に、可能なら非防水の靴を検討し、靴や足がどれだけ早く乾くかを考えるよう説明しています。防水シューズは一度濡れた場合に乾くまで時間がかかるという考え方です。
僕はロングトレイルでは「雨に濡れないこと」よりも、「濡れた後にどうするか」を重視することの方が多いです。渡渉が重なったり、残雪の上を何時間も歩く場合も、重要です。これがロングトレイルでは合理的だと感じています。
寒冷地や低温下で長時間濡れた足をさらすような状況では、保温性や防水性の重要度が変わります。
トレランシューズは登山靴より疲れにくい?
ここは少し注意が必要です。
「トレランシューズは軽いから疲れない」と単純に書くのは正確ではありません。靴の重量、クッション性、剛性、足との相性、荷物の重量、路面などが関係するからです。REIも、トレランシューズと登山靴のどちらが適しているかは、歩く場所、荷物、ペースなどによって変わるとしています。
僕が実際に感じているのは、「特定環境下において歩きやすく負担が少ない」ということです。特に舗装路では、その差を感じます。登山靴の安定感や保護性能が必要になる場面がある一方で、舗装路を何時間も歩くなら、僕にはトレランシューズの柔軟性や軽さの方が使いやすい。
これは「全員に当てはまる正解」ではありません。僕が何千kmも歩いてきた中で感じた、自分の足との相性です。
ただし、トレランシューズには明確な弱点がある
ここまでトレランシューズのメリットを書いてきましたが、僕は弱点もかなり感じています。
特に気になるのが、
- 耐久性
- 足の保護性能
- ガレ場での快適性
- 重い荷物との相性
- 天候への対応
です。
耐久性は登山靴より気になる
僕は普段、日本中を歩くときにはミッドカットの登山靴を使うことがあります。そこで感じるのが、トレランシューズの耐久性との差です。トレランシューズは軽さや柔軟性を得られる一方、モデルによってはアッパーやソールが早く消耗します。
僕自身、PCTではALTRA OLYMPUS 5を使用しましたが、約720km歩いた時点でアッパーに大きな破損が生じ、最終的にはダクトテープで補修しました。この経験から、僕はトレランシューズを「何千kmも一足で歩ける靴」とは考えていません。
むしろ、消耗することを前提に使う靴として考えています。
実際、ATの2025年調査では、回答者の多くが長いスルーハイク中に複数回シューズを交換しており、最も多かったのは4回交換、交換間隔はおおむね520マイルでした。これはメーカーの交換目安を示すものではなく、あくまで調査参加者の実態です。
だからロングトレイルでは、靴が壊れたらどうするのかまで考えておく必要があります。
ガレ場ではトレランシューズの弱点を感じる
僕がトレランシューズで特に苦手だと感じるのが、長時間のガレ場です。岩がゴロゴロしている。足を置く場所が不安定。硬い岩を何度も踏む。そんな場所では、靴のプロテクション性能が重要になります。
トレランシューズにも岩場を想定したプロテクションやロックプレートなどを備えたモデルがあります。REIも、トレイルランニングシューズには岩や木の根などから足を守るためのトゥガードやプレートなどを備えたモデルがあると説明しています。
それでも、登山靴と同じではありません。
僕なら、短時間のガレ場ならトレランシューズで歩く。でも、ガレ場が何時間も続く、何日も続くなら登山靴を検討する。という判断をします。
ここは「トレランシューズだから大丈夫」と一括りにしない方がいいところです。
荷物が重くなるほど、靴選びは難しくなる
もう一つ重要なのが、背負う荷物です。
僕がPCTを歩いたときも、ベースウェイトだけで約13kgあり、食料や水を加えると20〜30kgになることがありました。このような荷物を背負って歩く場合、足元に求める安定性や保護性能は当然変わります。
REIも、重い荷物を背負う場合には、より安定性やサポート性の高い登山靴が適する場合があるとしています。だから、「ロングトレイル=必ずトレランシューズ」ではありません。
- 荷物が重い
- 技術的な地形が多い
- 岩場が多い
- 雪が多い
- 寒い
- 足首や足をしっかり守りたい
という条件なら、より保護性能の高い靴を選ぶ理由があります。
川渡りが多いなら、防水性より乾燥性を見ることもある
僕がロングトレイルの靴選びで重視するもう一つの条件が、水です。
- 川を渡る。
- 雨が降る。
- 泥の中を歩く。
- 水たまりを踏む。
こうした環境では、靴が濡れる可能性があります。ここで「絶対に濡れない靴」を選びたくなる人もいると思います。僕は逆です。何度も水に入ることが予想されるなら、濡れないことより、濡れた後に乾きやすいことを考えます。
ただし、これも環境次第です。暑い地域で水に入ってもすぐ乾くなら、非防水シューズのメリットは大きくなります。一方、寒い地域で長時間濡れた状態になるなら、防水性や保温性の重要性は高くなります。同じ「川渡り」でも、気温と水温によって判断は変わります。
雨が多いならトレランシューズはダメなのか
必ずしもそうではありません。むしろ僕は、ロングトレイルでは雨が多くても非防水シューズを選ぶことがあります。理由は先ほど書いた通り、濡れることを完全に防ぐより、濡れた後の回復を考えるからです。
ただし、雨の量だけで判断してはいけません。
- 気温。
- 水たまりの多さ。
- 泥。
- 川渡り。
- 歩く時間。
- テント場に着いてから乾かせるか。
これらを合わせて考えます。たとえば、「暖かく乾燥した場所で、何度も水に入る」のと、「寒い場所で、一日中雨に打たれる」のでは、同じ非防水シューズでも意味が全く違います。
スピードハイクとの相性もいい
トレランシューズがロングトレイルで使われる理由として、僕はスピードハイクとの相性も大きいと思っています。トレランシューズは、一般的に登山靴より軽く、柔軟性があります。
REIも、トレランシューズは障害物を避けたり方向転換したりしながら速いペースで移動するために設計され、ファストパッキングやスルーハイキングで好まれることがあると説明しています。
ロングトレイルでは、毎日何十kmも歩くことがあります。そうなると、一歩一歩の歩きやすさだけではなく、一日の中でどれだけ長く歩き続けられるかが重要になります。
そのため、軽くて動きやすい靴に魅力を感じる人が増えるのは、僕には自然なことに思えます。
登山靴はいらないのか

もちろん、そんなことはありません。僕自身、日本中を歩くときには登山靴を使うことがあります。
- 足を守りやすい
- 岩や木の根から受ける衝撃を抑えやすい
- 荒れた地形で安定しやすい
- モデルによっては防水性が高い
- トレランシューズより耐久性を重視したモデルがある
といったメリットがあります。登山靴は安定性、耐久性、足や足首の保護、寒冷・悪天候への対応などがメリットになる一方、トレランシューズは軽さ、通気性、速いペースでの移動などがメリットになると整理しています。
つまり、トレランシューズと登山靴は、優劣というより得意分野が違う、僕はそう考えています。
トレランシューズを選びやすい条件
- 舗装路が多い
- 長距離を歩く
- スピードを意識する
- 荷物が比較的軽い
- 暑い地域
- 濡れても乾きやすさを優先したい
- 一般的な登山道が中心
- 長時間歩き続ける
こういう条件なら、僕はトレランシューズを選びます。
登山靴を選びやすい条件
- ガレ場が長い
- 岩場が多い
- 荷物が重い
- 足元の保護を重視したい
- 寒い
- 雪がある
- 泥や水への対応を優先したい
- 荒れた道を長時間歩く
- 足元の安定性を特に重視したい
こういう条件なら、僕は登山靴を選ぶ可能性が高くなります。
トレランシューズは登山には向かない、は違う

トレランシューズという名前から、「走るための靴だから、登山では使えない」と思う人もいるかもしれません。でも、現在のトレイルランニングシューズにはかなり幅があります。
- 軽量なもの
- クッション性を重視したもの
- 岩場向け
- 泥向け
- テクニカルな地形向け
- 防水モデル
「トレランシューズ」という名前だけで判断するのではなく、その靴がどんな地形を想定して作られているのかを見ることが重要です。また、単にランニングシューズとして販売されている事もある為、しっかりと説明を見て吟味した方がいいでしょう。
僕がトレランシューズを選ぶ一番の理由

ここまで色々書いてきましたが、僕がロングトレイルでトレランシューズを履く理由を一言で表すなら、「山以外も含めて、一日中歩きやすいから」です。ロングトレイルは、山だけを歩く旅ではありません。
基本的な生活は山の中ですが、週に一度。そのくらいの感覚ですが、一度は下山して、何か食料を買ったり観光をしたり、友人とビールパーティーを開催したり。様々な事をします。そんなことを何百日、何千kmと繰り返します。
だから僕にとって靴選びは、「一番険しい場所に合わせる」だけではありません。僕は舗装路で登山靴を履いて歩くことに強いストレスを感じるので、多少のプロテクション性能を犠牲にしてでも、トレランシューズを選びます。
一方で、ガレ場が長く続くなら話は変わります。つまり僕にとっては、トレランシューズが最強なのではなく、自分が歩く道に対してトレランシューズのメリットが大きい。ということです。
これからトレランシューズで登山するなら
初めてトレランシューズを使うなら、いきなり長距離の山行に投入する必要はありません。まずは普段の登山で使ってみる。舗装路を含むルートを歩いてみる。短い距離から試してみる。
- 足が痛くならないか
- 下りで足が前に滑らないか
- 岩を踏んだときに痛くないか
- 靴の中が蒸れないか
- 濡れた後に乾きやすいか
- 長時間歩いても足に違和感がないか
これらを確認しておきたいところです。特に重要なのはサイズとフィットです。トレランシューズは軽いから良いのではありません。自分の足に合っていることが一番重要です。
ロングトレイルでは足がむくむこともありますし、長時間歩くことで普段とは足の状態が変わります。ATの調査でも、スルーハイカーが靴を交換する理由として、フィットの問題、痛み、マメ、足の腫れなどが挙げられています。
「人気の靴だから」ではなく、自分の足に合う靴を選ぶ。これはロングトレイルでも普通の登山でも変わりません。
まとめ
トレランシューズは、登山でも十分に使える靴です。様々な環境にタフに対応するように設計されており、僕のような重量ハイカーでも使用できます。ただ、クッション性がすぐに消えるなどの問題はある為、買い替えが前提になります。とはいえ、グリップなどはしっかりと発揮されていました。
僕自身、トレランシューズの軽さや歩きやすさを気に入っていますが、同時に耐久性やプロテクション性能の弱さも経験しています。だから僕の答えは、条件を見て、自分に必要な性能を選ぶが大事だと思います。

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