登山では「ザックは軽いほうがいい」とよく言われます。実際、僕もザックを軽くすること自体には賛成です。ただ、6,000km以上歩いてきた僕は、最近ではザックの重量そのものを必要以上に気にしなくなりました。
なぜなら、ザックには「軽いこと」以外にも重要な役割があるからです。例えば、2kgのザックを1kgに軽量化できたとしても、そのために背負い心地が悪くなって肩に荷重が集中すれば、僕は軽量化のメリットをあまり感じません。
反対に、少し重いザックでも腰まわりを使って荷重を受けられれば、長時間歩き続けることができます。そして、ザックに余裕があれば、水や食料を十分に持っていくこともできます。これは長距離を歩く僕にとって、ザックそのものの1kg、2kgよりも大きなメリットになることがあります。
ただし、ここで誤解してほしくないのは、「ザックが重くても疲れない」という意味ではありません。荷物が増えれば、実際に身体への負担もエネルギー消費も増えます。大切なのは、重量をゼロに近づけることではなく、必要な荷物を無理なく運べる状態を作ることです。

結論:ザックの重量だけを軽くする必要はない

僕が6,000km以上歩いてきて感じていることを先にまとめると、こんな考え方です。
| 考え方 | 僕の考え |
|---|---|
| ザックは軽いほどいい | 必ずしもそうではない |
| 荷物が増えると疲れる | これは事実 |
| 2kg程度のザックは重すぎる? | それだけで判断する必要はない |
| 肩だけで荷物を支える | 長時間歩くなら避けたい |
| 腰荷重を使う | 大型ザックでは特に重要 |
| 食料・水を減らして軽量化 | 必要性を考えるべき |
| 歩く速度を落とす | 疲労対策として有効 |
| 休憩を適切に取る | 長時間歩行では重要 |
| ザックの重量を気にしない | 「重量だけ」に囚われないという意味 |
僕の場合、ザックを選ぶときは、「何kgあるか」より「その荷物を入れて一日歩けるか」を重視しています。
ザックが重ければ、実際に疲れる
まず、ここは誤魔化せません。ザックが重くなれば、身体は余計な仕事をすることになります。人間が荷物を背負って歩く場合、荷物が増えるほど歩行時のエネルギー消費も増加します。
ある研究では、成人が一定速度でバックパックを背負って歩いた場合、荷重が増えるにつれて身体が行う機械的仕事と代謝エネルギー消費がほぼ直線的に増加しました。つまり、「10kgでも20kgでも疲労感は同じ」ということではありません。
基本的には、荷物が増えれば、その分だけ身体は疲れます。だから、「ザックの重量なんて気にしなくていい」という話ではありません。僕が言いたいのは、「ザックの重量だけを減らすことを目的にする必要はない」ということです。
僕が「ザックの重量を気にしない」理由
僕がザックの重量にそこまで神経質にならなくなった理由の一つが、ザック自体の重量は、荷物全体から見ると一部分だからです。例えばザックが2kgあったとしても、
- 水
- 食料
- テント
- 寝袋
- マット
- 調理器具
- 防寒着
- レインウェア
- その他の装備
を含めれば、背負っている総重量はもっと大きくなります。その中で、「ザックを500g軽くするために、背負い心地を犠牲にする」ことが、本当に自分にとって得なのか。特に長距離では、装備を軽くすることだけが快適さにつながるわけではありません。
軽量化しすぎて肩荷重になるほうがつらい
僕がザック選びでかなり重要だと思っているのが、荷重のかけ方です。大型ザックにはヒップベルトが付いています。これは単なる「ザックを揺らさないためのベルト」ではありません。
荷物を身体に固定し、肩や腰などに荷重を分散するためにも重要です。実際、荷重を運ぶ研究では、ヒップベルトを使用することで肩周辺の圧力を軽減できることが確認されています。また、荷物を肩だけで支える場合と、腰を含めて荷重を分散する場合では、身体にかかる力の分布も変わります。
だから僕は、「ザックを軽くする」だけではなく、「重さを身体のどこで受けるか」を考えています。また、肩荷重を続けると肩を痛めて不快感も出てしまいます。
腰荷重ができると、重い荷物でも歩きやすい
僕が大型ザックを背負うときに意識しているのが、腰まわりを使って荷物を受けることです。もちろん、腰にすべての重量を載せればいいという単純な話ではありません。ショルダーハーネス、ヒップベルト、背面などを適切に調整して、ザックを身体に一体化させる。
そのうえで、肩だけに荷物が集中しない状態を作ります。肩に荷重が集中していると、歩いているうちに肩や首がつらくなってきます。一方、腰を含めて荷重を分散できれば、同じ重量でも「背負って歩ける」と感じやすくなります。
僕にとっては、こちらのほうがザックの重量を数百g削ることより重要です。
ただし「腰に載せれば何kgでも平気」ではない
ここは重要です。
腰荷重をうまく使えば、重い荷物が軽くなるわけではありません。荷物そのものの重量が消えるわけではないからです。研究でも、荷重が増えるほど歩行時のエネルギー消費は増えます。
つまり、腰荷重=疲れないではありません。正しくは、腰荷重=同じ重量でも、肩など一部に負担が集中するのを避けやすいということです。
僕自身も、荷物が増えれば当然疲れます。ただ、「重いから歩けない」という状態にならないように、背負い方や歩き方を工夫しています。
重いザックのメリットは「荷物を減らさなくていい」こと

ここが僕が一般的な軽量化論と少し違うところです。ザックを軽くするためには、当然ながら何かを減らす必要があります。もちろん不要な荷物を減らすのは良いことです。
僕も「念のため」という理由だけで使わないものを大量に持っていくことはおすすめしません。
ただし、必要なものまで減らしてしまう軽量化には注意しています。例えば食料ですね。長時間歩くのに、食料を減らしてザックを軽くする。これは僕にはあまり魅力的に感じません。食料をしっかり持っていれば、行動中にエネルギーを補給できます。水を十分に持っていれば、水場がない区間でも行動できます。
つまり、重量が増える代わりに、「歩き続けるための余裕」を持つことができます。
食料を十分に持つことは、重量以上の価値がある
僕が長距離を歩いてきて感じるのは、食料の重量を単純に「重り」と考えないほうがいいということです。食料は、歩くためのエネルギーそのものです。長時間歩くのであれば、当然ながらエネルギーを消費します。
そこで、「荷物を軽くしたいから食料を減らす」という発想になると、僕の場合は本末転倒です。多少重くなったとしても、十分な食料を持っているほうが安心して歩けます。お腹が空いたからといって予定より早く山を下りる必要もありません。
「今日はここまで歩こう」と決めた区間を、余裕を持って歩くこともできます。僕にとっては、このメリットがザックの重量増加を上回ることがあります。
水も同じで余力を持ちたい
水についても同じです。
水は非常に重い荷物です。1Lで約1kgあります。だから、「水を減らしてザックを軽くしたい」と考えたくなる気持ちは分かります。でも、水を必要以上に減らすのはおすすめしません。
特に水場の少ない場所では、必要な水を確保することのほうが重要です。僕自身、PCTの砂漠地帯では多くの水を背負って歩きました。当然、ザックは重くなります。それでも、水が足りなくなる不安を抱えながら歩くより、必要な水を背負って歩くほうがいい。僕はそう考えています。
水の必要量については、別記事で詳しく計算しています。
「重い=悪」ではなく「必要な重さか」を考える
ここまでの話を整理すると、僕が言いたいことは単純です。ザックが重いこと自体が問題なのではありません。問題なのは、必要のないものまで持っていること。そして、必要なものまで削ってしまうこと。この二つは似ていますが、意味がまったく違います。
例えば、「使わない着替えを5枚持っている」なら、減らしていいでしょう。
一方で、「水場がないから4Lの水を持っている」なら、その4kgには明確な意味があります。
同じ4kgでも、価値が違います。僕はこの考え方で荷物を決めています。
ザックが重いときは「重量」より先に歩き方を変える

では、実際にザックが重いときはどうするのか。僕はまず歩く速度を落とします。重い荷物を背負ったまま、軽い荷物のときと同じ速度で歩こうとすると、当然身体への負担が大きくなります。
歩行速度と荷重はエネルギー消費に関係しており、荷物を背負った状態では速度によって歩行の効率も変化します。だから、荷物が重いなら、速度を落とす。これだけでも考え方が変わります。
僕は「重いザックだから遅くなる」のではなく、「重いザックを背負う日は、最初からその速度で歩く」と考えるようにしています。
登りで頑張りすぎない
特に重要なのが登りです。登りで周囲の人につられて速度を上げると、後半に一気に疲れることがあります。僕は長距離を歩くときほど、序盤で頑張りません。
「まだ元気だから速く歩ける」ではなく、「この速度を何時間続けられるか」で考えます。これは日帰り登山でも同じです。最初の1時間を気持ちよく歩けても、3時間後に動けなくなれば意味がありません。重いザックほど、序盤の無理が後半に響きます。
小さな歩幅で歩く
重いザックを背負っているときは、僕は歩幅も大きくしすぎないようにしています。大股で歩くと、一歩一歩の動きが大きくなります。特に登りでは、無理に大きな段差を一気に上がろうとせず、必要なら小刻みに歩きます。
登山では、「一歩を小さくして、一定のリズムで歩く」ほうが、長時間歩き続けやすいと僕は感じています。これは「重いザックを軽くする方法」ではありません。重いザックでも無理なく歩けるようにする方法です。
休憩は「限界まで疲れてから」では遅い
重いザックを背負っていると、休憩も重要になります。僕は、「疲れたから休憩する」だけではなく、「まだ動けるうちに休憩する」ことを意識しています。限界まで頑張ってから休憩すると、回復するまでに時間がかかります。
一方、少し余裕がある段階で休憩すれば、短い休憩でも次の区間を歩きやすくなります。特に長距離では、「どれだけ速く歩けるか」より、「どれだけペースを崩さず歩き続けられるか」のほうが重要だと僕は考えています。
集中力が切れるまでに休憩する
集中力が切れると、歩くことが楽しくないし速度も大幅に減少してしまいます。歩くことが楽しめる間に休憩を挟むことで、集中力を継続することができます。人によっては、1時間、2時間と決まったタイミングで休憩を挟んでいる方もいました。
一方で、一回にまとめて休憩を取るタイプもいます。僕はコッチのタイプで、基本的に昼とおやつ休憩のみで歩くというのが多かったです。ただ、一月以上も行動が続くと、集中力の低下も大きく感じていました。
「疲れている気がする」と「実際に疲れている」は別
ザックの重量について考えるとき、もう一つ面白いのが疲労感です。僕自身、「今日はザックが重いから疲れそうだな」と思うだけで、身体が重く感じることがあります。だから、疲労感については少し「気のせい」の部分もあると思っています。
ただし、これは完全な気のせいではありません。荷物が増えれば、実際にエネルギー消費も増えます。つまり、「重い気がする」だけではない。本当に身体は余計な仕事をしています。だから僕は、「気合いで無視する」こともしません。
疲れているなら速度を落とす。必要なら休憩する。水分や食料を補給する。そうやって実際の疲労に対処します。
トレッキングポールも疲労対策になる
重いザックを背負って歩く場合、トレッキングポールを使う方法もあります。僕自身、トレッキングポールを長距離で使ってきました。ポールを使うことで、歩行時の推進やバランスを補助できます。
研究でも、荷物を背負って傾斜を歩いた条件で、ポール使用によって主観的運動強度が低下したという報告があります。一方で、その実験では酸素摂取量や消費カロリーなどには有意差がありませんでした。
つまり、「ポールを使えば身体の消費エネルギーが大きく減る」とまでは言えません。それでも、「同じ運動でも、きついと感じにくくなる」可能性はあります。僕自身の感覚としても、特に下りや長時間歩くときには、ポールがあることで歩きやすいと感じています。
トレッキングポールについては、別の記事で必要性や使い方を詳しく紹介しています。

重いザックを背負うなら、装備より「運用」を考える
ここまで読んでもらうと、「結局、ザックは軽いほうがいいの?」と思うかもしれません。
僕の答えは、「必要な範囲で軽くすればいい」です。例えば、不要な荷物を減らす。同じ性能なら軽いものを選ぶ。使わない装備を持たない。これは積極的にやります。
でも、水や食料を削る。必要な防寒着を削る。背負い心地の良いザックを軽さだけで別のものに変える。そこまでして軽量化する必要はないと思っています。ザックの重量を減らすことには限界があります。
一方で、「歩き方・使い方」は、今持っている装備のままでも変えられます。
僕が6,000km歩いて感じる「重さ」との付き合い方

PCTを含めて6,000km以上歩いてきました。その中で、僕は「とにかく軽く」という考え方から少し離れるようになりました。もちろん、軽い装備には魅力があります。
軽ければ、それだけ運ぶ重量が減ります。でも、長く歩いていると、それだけではありません。
- 水を持てる。
- 食料を持てる。
- 寒さに備えられる。
- 雨に備えられる。
- 必要な道具を持てる。
そして何より、「足りなくなったらどうしよう」という不安を減らせる。僕にとっては、この余裕がかなり大きい。だから僕は、ザックの重量を見て、「重いからダメだ」とは考えません。
まず、「この重量には何の意味があるのか」を考えます。意味のない重量なら減らす。必要な重量なら、その重量を背負って歩けるようにする。これが、今の僕の考え方です。
まとめ:軽量化より「必要な重さをどう運ぶか」
登山ザックは、軽ければ軽いほど良いわけではありません。もちろん、荷物が増えれば身体のエネルギー消費は増え、実際に疲労も大きくなります。だからこそ、不要なものは減らす。これは大切です。
でも、必要な水や食料まで減らす必要はありません。ザックそのものも、「何kgだからダメ」ではなく、「その重量を自分が無理なく運べるか」で考えます。
「軽いザックを背負うこと」より「自分に必要な荷物を、無理なく運び続けられること」のほうが大切です。軽量化は目的ではありません。自分が安全に、快適に、最後まで歩くための手段です。

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